ハワイの日本大使館
このときばかりは理性の勝った厳しい戒めなど不要。日当たりの悪い仄暗い室内に妖しいほどの光を放ち食パンは佇む。
輝くその白さに吸い寄せられ、理性を失いわたしは貪り食う。静かな室内に自分の咀嚼する音だけが響き、唾と共にゴクッと嚥下。胃に塊が流れ落ちていく。
今夜はここで寝る流れだと、気分は渡り鳥。
人間、腹が満ちれば余裕が出るもの。さてどうしたものかと思案を始めた。
すべき順序としては、大使館訪問 → ハワイ銀行まで同行してもらい → 緊急送金の受け取り。これはもう国家的プロジェクトやねとパンを頬張りつつ、ちょっと笑う。
そのあとガイドブックで調べた大使館へは、やはり迷った。
日本人と思い、すがる思いで声をかけた男性は日系三世の現地人。まったく日本語が通じないにも関わらず、彼は親切にも大使館まで一緒に歩いて案内してくれた。
見た目はまったくの日本人だというのに、一言も日本語が通じないこの不思議。ここはハワイ。紛れもない異国の土地なのだと改めて実感。
大使館へは既に連絡が入っていた模様。ほぼ全員がアロハシャツという光景に、一瞬吹き出しそうになるも、事態の緊急度から厳しく自分を律する。
「急ぎましょう!」
アロハシャツを着た大使館職員の人が慌ただしく車を出してくれ、一路ハワイ銀行へ。
すみません。すみません。こんなことで国家経費を使ってしまい…。わたしは涙声で謝りまくりながらも、当然のごとくその人から携帯電話を借りると、姉に電話。
「あ、お姉さん…。今大使館の人と車で銀行に向かってる」
甘え頼れる存在を得たわたしはすっかりと安心。ふうっとため息をついて電話を切ると、車窓に流れるハワイの景色を堪能し始めた。
「ホノルルの街って、バスからと車からとでは、見た感じが違いますね!!」
車高が違いますからね…。あ、電話をお返しくださいますか?
そう言われ、借りた携帯電話を自分のカバンにそのまま仕舞おうとしていた自分に気づく。
「ははは…。ひとり旅だとすっかり用心深くなりまして!!」
白けた空気が車中に漂う。外交官だろう彼の着用するくだけたアロハによりわたしは礼儀を失い、その物腰の慇懃無礼さによって距離を設けられる。
独特な空気感のまま、車はダウンタウンのハワイ銀行へと到着。