秋花粉
「私は花粉症ではありません」という台詞は、花粉シーズンに必ずちらほら耳にする。
かくいう私も対外的には、自分は花粉症ではないと言っている。
強がりである。
多分花粉症である。
多分というのは、病院で診断されていないからである。
もし医者から診断書をつきつけられてしまったら、もう「花粉症ではありません」の強がりを言うこともできなくなり、決定的に花粉症に屈服することになるから絶対に医者には行かない。
ともあれ花粉症を発症したらしいのはつい2年ほど前のことである。
突然目がかゆくて夜中起き、鼻の中からのどの奥から、色んなところが痒くてたまらなくなった。
身体はだるいわ、熱っぽいわ、鼻水は出るわ、でほぼほぼ風邪の症状である。
それでいて会社は休めない、花粉症の一言で片付けられて誰も同情してくれない。
そんなことを初めて自分で体感するにつけ、こんなにろくでもないものがこの世にあるということを学んだ。
私は今まで、いかに理不尽でない世の中を生きていたことか。
それから春が恐ろしくなった。
大好きだった春、雪解けの春、希望と開放感と共に花粉症が一緒にやってくるようになった春。
夏が来るのがすっかり待ち遠しくなった。
春が過ぎてしまえば、少なくとも残りのシーズンは、花粉症症状に邪魔されることなく、人生を謳歌できる。
そう思っていた。
ところが最近、「秋花粉」なるものを知った。
つい3日程前のことである。
何だか目じりがずっと痒い。
鼻水が絶えず出る。
これは、季節の変わり目の風邪だなあ、とぽろりとこぼしたら、周囲から「それは秋花粉だ」という無情な事実を知らされた。
言われなければ、気づかずにすんだかもしれなかった。
でも知ってしまった以上、もう意識しないわけにはいかない。
これから先、私は四つしかない四季のうち、二つまでも呪って生きていかなくてはならなくなったのだ。