いなごの佃煮
食べられないものは貝類。
それ以外は日常生活を営む上で支障をきたす程、嫌いな食べ物はほとんどないと言える。
でも、いなごの佃煮は食べられない。
原っぱでおいかけまわしたバッタたちを思い出してしまう。
でも、いなごの佃煮は、必ず祖母の家に行くと台所にあった。
梅干や、きゅうりのぬか漬けや、サメのにこごりなんかが盛られたお皿の脇には、薄いプラスチックのトレイに入ったイナゴの佃煮がいた。
まるで、小魚の甘露煮のような顔をして。
ちなみに、コブナの甘露煮も、祖母の家にはあったようである。
コブナの甘露煮も、私は好きではない。
コブナが綺麗にひき揃えられて、みんなでこちらを見てくるからである。
食べ物というのは、やっぱり育った環境と習慣と言うものが非常に大きく影響するものだ。
たまたま私の人生では、虫を食料とする習慣がなかったので、多分この先もいなごを食べられるようにはならないだろう。
でも祖母が育った環境では、畑や田んぼでたくさんいた、いわゆる「害虫」と分類されたいなごを食べて処理してきたことも納得だ。
だから、祖母がいなごを好んで食べることも、私がとやかく言うことではない。
最近では大分浸透してきたらしいが、海外では蛸を悪魔と嫌って食べない国も多かったようだ。
これは日本では考えられないことだが、あくまで文化が違うだけであって、それはそれなのである。
否定する必要も、される必要もない。
そもそも、自分と違うものを否定するということがこの世の中多すぎるようである。
本当に、よくよく注意して発言しないといけないと思う。
さしあたっては、祖母の家でいなごをみても、「うわ、いなご」と言わないようにしないといけない。