独り言

会社にある私のデスクのちょうど正面に鎮座しているお局様の後ろ姿から
ありがたいお説法のごとき独り言が毎日ありがたいくらいに漏れてくる。
いや、はみ出している。

それも毎日。周りに人がいようがいまいがお構いなしに。というかお構いなくて結構感すら感じられる。
最初はありがたやありがたやと拝聴していたわけだが、これはもはや公害にござる。
しかも聞こえるんだけど内容が聞き取れないくらいの微妙なラインでせめてくるのでタチが悪い。
でも確実に聞こえる。耳を澄ませばそのウィスパーヴォイスは自虐ネタが多いようだ。
修行とも拷問とも思えるこの苦行はネチネチとしていてボディブローのように確実にダメージを与え、私の精神をもむしばんでくる。そしてボディがお留守だぜ、と言わんばかりの執拗なまでの攻撃。
しかし小心者の私は社長にもタメ口のお局様に反撃することは許されない。なにより私の文房具をいつも発注しているのはお局様なのだ。いつもありがとうございます。
いやいや、今はそんなことを言っている場合ではない。
私はついに先輩に助けを求めることにした。外出している先輩の携帯にもう耐えられませんと。
よし、分かった。戻ってきたら何とかしようと心強い返事。これでやっと仕事ができる、そう思った。
ところがその先輩が帰ってきた頃には状況が変わっていた。なんとお局様の脇にパンチパーマ歴25年の御仁がSPとしてついているではないか。さすが召喚士お局様である。それは強い。
そして僕はとうとう現実から逃げることを諦めた。
心地よい独り言のシャワーを浴び続けようと。耳に吸い込まれる独特のイントネーションも。
あ、定時だ。僕帰ります。

«
»